『哲学の謎』 野矢茂樹

講談社現代新書 1996 通読 新書 新書 A \680+税 自 2004/11/4

1.意識・実在・他者 2.記憶と過去 3.時の流れ 4.私的体験 5.経験と知 6.規範の生成 7.意味の在りか 8.行為と意志 9.自由

再び野矢茂樹である。今回は『無限論の教室』と違って、「世界観を崩壊させるほどに寒いギャグ」は出てこない・・・と思ったらこっちの方が先か。まずいな・・・98年以降、著者は自らのギャグセンスを過信しだしたのだろうか・・・

哲学入門というと、やれプラトンだ、やれカントだと、どうしても哲学史の文脈の中で哲学を解釈しようとするが、この本にでてくる固有哲学者人名はラッセルのみ。にもかかわらず、内容的にはプラトンやカントやショーペンハウエルや、おそらくはハイデガー、ヴィトゲンシュタインなども含んでいる。実在とは何か、時間とは何か、そうした言葉のあやふやさが対話の中で明らかにされ、そして、その言葉自身にも懐疑が向けられていく様は見事というほかない。

全9章にそれぞれのテーマが与えられているが、きちんと前章の議論が伏線になっていたりして、構成も見事。少ないページで完全な答えをだせるはずもないが、そこはうまくぼかして終わらせる技法も見事。一つ一つの章が小説のように起承転結を伴って終わっていき、心地よい。また、対話にしても先生と生徒という構造を取らず、二人がほぼ対等の地位で議論を詰めていく様は、有益なゼミナールに参加しているかのよう。結論をぼかした終わり方は、無難を心がけたのではなく、ここから先は読者で考えよ、と宿題を出しているのだ。

「誰にでも内なる意識の世界があり、にもかかわらず、お互いの心についてある程度分かりあえ、しかも実在の世界についてもある程度確実に知りうる、ということ。」
「それがごく常識的な了解だよね」
「これほど健全な絵を整合的に描いてみせることがこうも困難だということが、むしろ驚きに感じられてきた。」
(P31-32)

この台詞が最終章で言葉の問題として収斂していく。論理の世界の問題というものが、半分以上我々があやつる言葉の限界に根ざしているであろうことが分かる。読んでいないので分からないが、恐らく、こうしたことを語ったのがヴィトゲンシュタインら、ということになるのであろう。

なんの腹の足しにもならぬ知識や議論が、ここまで充実感をもって読めるのが素晴らしい。SF的世界観を目の当たりにしてくれる好著。

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