『ドキュメント日本人1 巨人伝説』 岩崎徂堂 木下尚江 夢野久作 倉田百三 南方熊楠 城山三郎 村松梢風井出孫六 村岡空 中里介山

学芸書林 1968 通読 A5 ハードカバー A \680 ****中央図書館 03/11/16

中江兆民 田中正造 頭山満 中山みき 南方熊楠 出口王仁三郎 秋山定輔 賀川豊彦 中里介山 野口英世 折口信夫

上記人物について書かれた、ノンフィクション、自伝その他が収められている。著者は様々。

圧巻は野口英世。井出孫六が「非英雄伝」と称して、野口英世の隠された真相に迫る、と書くとなんだか軽々しい印象なのだが、そんなことはない。あらすじにはこう書かれている。

「立志伝の野口英世の本当の英闘時代は渡米前、在京中の時期。金のためにやとわれれば満州にまで出張した出稼ぎ医師の時代。知人という知人に金は借り尽くす、その金を湯水のごとく酒に注ぐ。紅灯の巷に出没する。希望のない屋根裏の放蕩無頼。・・・あくまで一説だが北里研究所を追われたのは、部署を利して、図書を質草に渡したのが露見したためだといわれている」

こう読んで野口英世のスキャンダルかというのも正しくない。この作品中、野口と親交を持ち、金を与え続けた八木なる人物の息子が登場し、野口書簡の存在を明らかにする。その書簡は、およそ金の無心でないものはないという。だが、八木息子はその書簡の公開を拒むのである。だから、真相は確かめようがないことになっている。だがそれでも、この作品中に書かれた英雄ではない人間野口英世は、そのスキャンダラスさに関わらず、真実のものとして迫ってくる。

伝記というものがある意味いかにいかがわしいものであるかがこの本で分かる。伝記に嘘は書いていないかもしれない。だが、事実の取捨選択が強力に、恣意的に行われることによって真実とはかけ離れた英雄を誕生させるのが伝記であると言える。野口の英雄の仮面をはぎ取った時、伝記以上の感動がそこにある。金銭に関する限り無恥な野口。アメリカに渡った時二十数ドルしか持っていなかった無謀。下宿に帰らずロックフェラー研究所で仮眠し、顕微鏡を覗いてプレパラートを作る野口英世に、「ふて腐った絶望の体臭がただよっている」と著者は言う。黄熱の研究のためアフリカにわたったその後ろ姿に「ニヒルな猪突」を著者は見る。

彼の行為は他者によって博愛精神、ヒューマニズムと名付けられたが、彼自身の動機は全く違った、どす黒いものに突き動かされるようにして、なるべくしてなったものではなかろうか?著者が断片的に描く野口像は、不条理極まりない。だが伝記に書かれた英雄野口英世より遙かに真に迫っている。「志を得ざれば再びこの地を踏まず」と柱に刻んだあのエピソードも、明るく爽やかな覚悟ではなく、狂気すれすれの自暴自棄ともつかぬ覚悟だったと感じさせる。

その他、頭山満は確か丸山真男に日本ファシズムの卑小性の引き合いに出されたような馬鹿さ加減が披露されている。サナダムシを火鉢に乗せて家の主人をびびらせる、等々。くだらない。これが日本右翼の巨頭だと言うから、丸山真男もこりゃナチとは違うわ、と考えたのも無理はない。とにかくくだらない。

様々な著者やテーマが選ばれているが、玉石混淆の感はある。取り上げられた人物について少しでも知っていれば、理解が助けられると思う。03/11/26

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