『チェ・ゲバラの遙かな旅』 戸井十月

集英社文庫 2004 通読 文庫 文庫 B \533+税 自 2005/6/30

チェ・ゲバラは好きだ。おそらく、世界で最も好かれている共産主義者であり、世界で最も好かれているゲリラであろう。ファミコンゲームさえでてしまうくらいだから。1Pがゲバラ、2Pがカストロってどういうゲームだ。それはともかく、そういうことから見ても、まさに伝説の戦士と言ってよい。が、なぜかゲバラに関する本に今ひとつ手が伸びなかったのはなぜであろうか。多分、どれもこれも分厚い割に面白くなさそうだったからである。

その点、本書は薄い。しかし、テーマは絞り切れている。面白いエピソードをより集めてあるので、退屈や冗長を感じずに読める。本書で描かれるゲバラは、別に軍事的天才ではない。著者のゲバラ解釈を一言で言うなら、「どこか人を惹きつけてやまない永遠の旅人」のイメージである。この解釈には多分に著者自身の期待も入り交じってはいるが、ゲバラの一面を表してもいると考えさせられるほどには、このノンフィクション作品は真実に近づき得ていると思う。

数十名のゲリラが、ボロ船に乗って、キューバを目指す。もちろんその中にカストロとゲバラがいる。全く無謀である。数十名で国家をひっくり返そうというのだから。だがこれが成功してしまう。キューバ人の支持を得て、勢力は拡大し、バチスタ政権はやがて崩壊する。この過程で著者の筆は、ゲバラが見事に闘ったようなことは書かない。ゲバラは虫や雑草を食べながらただひたすら進む。軍事的天才とはほど遠い。これでは単に根性のある人である。だがそれは多分正しい。知略やらなにやらだけで国家をひっくり返せるなら苦労はしない。キューバ革命にあって、ボリビア革命未遂になかったのは、人民の協力だった、と著者は言っているように思われる。キューバでゲバラたちをかくまった農民たちが、ボリビアでは進んで密告を行う。そこにゲバラの甘さがあった。ラテンアメリカが民族的近似性を持っているなどという考え方の甘さも露呈される。そしてとらえられ、処刑される。軍事的天才とはほど遠い。

だがそれでも、ゲバラの情熱家としての生が、人の心を打つノンフィクションが本作。旅人ゲバラの姿勢は迷いを抱きながら一貫しているが、単なる無思考の旅ではなく、独自の正義感を伴った旅であった。彼の旅は若い頃の個人的なそれ(例えば沢木耕太郎的な)から、自分の正義、人民の正義を貫こうとした旅に変化していったわけだ。一貫した視線を持って一人の人物を記述した好著といえるだろう。

ただし、カストロやゲバラに点が甘いのは仕方のないところ。アメリカが本当に悪の帝国のように描かれるのも、まあ確かにアメリカのキューバ恐怖は異常なものがあったので、わからぬでもないが。本当にキューバが、地政学的要因とか政治的要因とかでサトウキビ栽培に依存した体制をとらなければならなかったのか、その辺は学問的にはもっと突き詰められなければならないが、まあこれはノンフィクションという物語なので、よしとする。

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