『中小都市空襲』 奥住喜重

三省堂選書 1988 流し読み B6 ソフトカバー B 1500 A区図書館 2004/6/13

主に米軍側資料に基づいて、B29による本土爆撃の実態を探る、研究ノート。一般書とは言い難い。読む喜びはない。知る喜びにしてもあまりにも専門的な事柄に属する。だが、それがいい。最初は危惧があった。「はじめに」で、「八王子空襲を記録する会」に参加しどうのこうのと書いてあるからだ。こうした会が悪いとは言わないが、往々にしてくだらない政治色が付着する。ガチガチに固定したイデオロギー的史観が出てきやしないかと、出てきたら不愉快だな、と危惧していた。だが本書本編には一切それがない。すばらしい。基礎研究者としてのモラルを守ってくれてありがとう。

もっとも、あとがきにこうある。

第一次大戦の直後に、現在の反核運動のような市民の側から盛り上がった運動としてではなかったが、航空機の軍事利用を全面的に禁止しようという論議が行われたこと。本書で扱った時期以前に、日本自身が中国本土を盛んに空襲していたこと。日本がアメリカと戦うに至ったのは、日中戦争の収集に失敗しながら中国侵略の政策に固執し続けた結果であること。日本はアメリカの攻撃の前に敗れたかに見えるが、最初のB29基地を成都附近に置くについては、中国の抗戦意志に梃子入れをする政治的なねらいもあったという一時からも分かるように、究極のところ中国に敗れたのだと言いうること。これらは、本書の内容が内容であるだけに、割愛したことが心に残る。

割愛してくれて大変助かりました。全く、「言い得る」からなんだと言うんだろうか?まあそういう限界を悟った上での本の作り方は、賞賛されてよい。

さて、米軍による圧倒的な破壊が、殆ど何の情緒も交えずにただただ記述される本書である。空襲について研究される方はまず見てみてはいかがだろうか・・・

とそれだけでは面白くないので、二三紹介すると、例えば米軍が投下したビラなどは面白い。まあ本書にのみ書いてある史料とは言えないだろうが、せっかくだから。原文には句読点がないが、適宜差し挟み、旧漢字は面倒だから適宜新字とする。原文は表がB29の写真と都市名が書いてあり、裏面に几帳面な字で警告文が書かれている。

 日本国民に告ぐ

 あなたは自分や親兄弟友達の命を助けようとは思ひませんか。助けたければこのビラをよく読んでください。
 数日の内に裏面の都市の内全部若くは若干の都市にある軍事施設を米空軍は爆撃します。
 この都市には軍事施設や軍需品を製造する工場があります。軍部がこの勝ち目のない戦争を長引かせる為に使ふ兵器を米空軍は全部破壊しますけれども爆弾には眼がありませんからどこに落ちるか分かりません。ご承知の様に人道主義のアメリカは罪のない人たちを傷つけたくはありません。ですから裏に書いてある都市から避難してください。
 アメリカの敵はあなた方ではありません。 あなた方を戦争に引っ張り込んでいる軍部こそ敵です。アメリカの考へてゐる平和といふのはただ軍部の圧迫からあなた方を解放することです。さうすればもっとよい新日本が出来上がるんです。
 戦争を止めるような新指導者を樹てて平和を恢復したらどうですか。
 この裏に書いてある都市でなくても爆撃されるかも知れませんが少なくともこの裏に書いてある都市の内必ず全部若しくは若干は爆撃します。
予め注意しておきますから裏に書いてある都市から避難してください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

変わらんね、60年前からお前達アメリカは何も変わらん。なーにが「人道主義のアメリカは罪のない人たちを傷つけたくはありません」だこのスットコドッコイ。強烈に頭に来ますね。アフガンでもイラクでも同じ事を言っているし。*1

もう一つのエピソードが本書にある。アメリカが沖縄本島に上陸を開始したのが4/1、日本側は特攻機による肉弾攻撃を行う。そこでアメリカ側は、戦略爆撃任務に能っていた第21爆撃集団に命じて、九州一円の飛行場を爆撃させることにした。「この大都市焼夷空襲の中断は、四月十六日から五月十一日まで、約一ヶ月の間続いた。沖縄と特攻隊の犠牲において得たものであり、もはや「天が下に隠れ家もない」というのが実情であったが、一ヶ月間の休止は、ともかく大都市の市民に、疎開のための最後の猶予を与えることになった」

なんだか私はやっぱりこういうことに感動してしまうんだけれども。特攻隊員の命で贖われた時間と命。

*1 お願いだからその辺な反米主義者とは一緒にしないでください。私は日米安保堅持派ですので。

戻る ジャンル別分類へ戻る
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送