「中世を旅する人々」 『阿部謹也著作集3』所収

阿部謹也 筑摩書房 2000 通読 A5 ハードカバー A+ ? ****中央図書館 03/12/4-10

1.村の道と街道 2.川と橋 3.渡し守 4.居酒屋・旅籠 5.農民 6.共同浴場 7.粉ひき・水車小屋 8.パンの世界 9.牧人・羊飼い 10.肉屋の周辺 11.ジプシー 12.放浪者・乞食 13.遍歴する職人 14.ティル・オイレンシュピーゲル

中世に暮らした人々の生活を著述したもの。特にテーマだとか問題提起だとか、そういったものがあるとは思えないのだが、べらぼうに面白い。限られた史料の中から中世を描き出すには、想像力が大事だろう。その想像する楽しみが文章にもにじみ出ている。

暗黒の中世史観なら、各種の理不尽がまかり通る、非科学的でただ遅れた社会と描かれる世界だが、阿部の描く中世は、独特の論理を持っている。例えば「粉ひき」が賤民視されたことに関して。まず第一に、水車小屋が農民にとって自分たちの穀物をごまかしかねない恐ろしい場所として写ったこと。また水車は領主の支配下にあり、粉ひきは領主と契約して様々な特権を付与されていた。村民には水車の使用が強制され、手回し石臼の摘発まで行われていたという。もちろん、水車利用料を吸い上げるためである。こうした領主の手先としての怨嗟がいつしか選民視につながっていったと著者は語る。

表題作以外の作品も、色々と興味深い。騎士の鎖かたびらはなんと領地収入一年分にも相当したとか。馬に至ってはその比ではない。そして中世都市は汚物を窓から道路に投げ捨てていたので異臭が漂っていたとか。RPG・ファンタジー作家はどんどん阿部の世界観を取り入れていっていいのではないだろうか。おそらくは陳腐な様式美の世界に突入(基本的に指輪物語の再生産)しつつあるファンタジーという物語に、喝を入れる研究である。

いや本当に、ファンタジー小説気分で読めて賢くなるいい著作である。

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