『春期限定いちごタルト事件』 米澤穂信

創元推理文庫 2004 通読 文庫 文庫 A- \609 自 05/2/12

小説には点が甘い気がする。多くの小説を読んでいるわけでもなく、他人の推薦するものを読むからこういうことになるのだが。まあいい。面白ければいい、というのはシンプルな価値判断でいい。

ミステリーは好きだ。ミステリーは苦手だ。人の名前が覚えられない。私の場合、登場人物紹介を読みかえしても誰だっけ?となるから、重症だ。これではミステリーを十全に楽しめているとはいえないだろう。その点今作は楽勝すぎて楽しい。いやあ、ミステリーって、本当にいいですよね、とライトノベルを読んで思う。登場人物はメインキャラ3人、サブキャラ2人で覚えることに苦はない。

殺人も密室もないミステリ。というか、日常の謎を解く子鳩くんと小左内さん。はっきり言って、ほとんど無益な謎解き。だが当の二人にとっては、その推理能力を秘匿して、「小市民」となることが望み。というから、実にライトである。だが、それがいい。日常に謎を見いだし、その(どうでもいい)謎を解こうとする。登場人物たちは人生の楽しみ方を知っていて、うらやましい。

一番のお気に入りは、「おいしいココアの作り方」で、実際のミステリ解決もさることながら、人物の心理推理も織り込まれていて、感心する。体育会系直進キャラCがココアを作る。そのココアは、まずココアパウダーを少量の温かい牛乳で溶き、ペースト状にしてからさらに牛乳を注ぐ。彼は三人分のココアを作った。しかし、台所にはスプーンが一本残されているのみ、シンクは乾いている(=洗い物はしていない)。この謎に、主人公たちが解決を与えようとする。小市民になる誓いを忘れて。様々な思考を積み重ねて、ようやく解答にたどり着く二人。その解答は確かに盲点といえるものだが、だからどうしたともいえるものである。だが、楽しい。与えられた条件から、人に出来ない推察を導き出す、そしてそれをひけらかす、その快楽を二人は知っており、その快楽の代償--人の冷たい反応--を知っているから、彼らは小市民になることを決めた。気持ちはよく分かる。

人物描写は、実に自然。「〜だわ」「〜のよ」などの典型的(古典的)女言葉なぞ使わなくても、あるいは妙な語尾をつけなくとも、萌えキャラは作成可能だということが証明されている。子鳩と小左内の微妙な距離感も萌え満載である。正しい幼なじみとはこういうものだッ。とても近い距離にいながら、つきあっているわけでもなく、べたべたするわけでもなく、それでも離れがたい何かがあって、肉体的セクシュアリティとは別次元の親近感。おれも幼なじみが欲しかった!!!

というわけで続編を強く希望する。しかし、子鳩と小左内の距離が近づいていく路線は却下。

ただ、解説が腐っている。ぶっ飛ばしてやりたい駄文である。(汗)とか使うのはネットの中だけにしろ。ちなみに言っておくと、ネットの中で使ったとしても、寒い。「以下の文章にはお見苦しい点もあるかと思いますが」→はい、存分に見苦しいです。「しばしおつき合いくださいませ」→いやです。久々に「氏ね」と言いたくなった。解説のせいでA-である。本編は、問題ない。

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