『戦場の歩き方』 非日常研究会著

同文書院 1996 通読 A5 ソフトカバー B- \1300 *****図書館 03/9/11

大真面目に戦場、核実験場、地震地帯等を歩く際の注意事項を語った、笑う本。

それなりに笑えるし、ためになることも書いてある。問題点は、どうもテーマの選出にあるようだ。例えば表題の「戦場の歩き方」では、自分の町が戦場になった時に通勤する方法が書いてある。これは困難に「巻き込まれた」際の対処法である。だが、「核実験場を歩く」とか、「北極の歩き方」「台風ハンター」などになると、これはわざわざ野次馬に行っているだけの話である。ネタとしてはイマイチ面白くない。これはただ単なる非日常なのである。

マンガ『サルでも描けるマンガ教室』で、面白い設定とは何か?という話がある。曰く、面白い設定は日常と非日常のバランスが命であるという。一般的に、面白い設定は単なる日常に非日常が侵入することによって発生するという。

「読者とは基本的に保守的な存在であって、日常部分を度外視しては広い共感を得る事は難しいが、さりとて平凡な日常描写のみで面白いドラマを作ることもまた至難の業だ。非日常的要素はドラマ作りの上で欠かせない重要なスパイスなのである。しかしスパイスのみ(引用者注:ただの非日常)しか思いつかないというのは天才かまたは別次元の人である可能性があるので注意した方がよい」

戦場となった町中を通って通勤する、という「戦場の歩き方」は、この日常+非日常の原理がはたらいて、大変楽しく読める。通勤という日常の中に戦場という非日常が混在することがとても滑稽で、しかし考えさせられるのである。たとえ町が戦場になっても、そこに残った一般市民は生活していかなければならない。金も必要だし食料も水も必要になる。そんな中で、戦場という通勤路という設定は、全く正解ではないものの、面白く、あり得る話なのだ。だから、面白い。読者をぐっと引き付ける。

だが北極歩き、台風ハンターとなると、これはただ単なる愚行でしかない。「サルまん」の話で言えば、単なる非日常、なのである。だから今ひとつ面白くない。単なる寒さ対策、風対策、雨対策の解説としてしか読めない。単なる雑学知識の披露に終始してしまっている。だから、面白くない。設定に問題があるのだ。読者がのめり込める設定を作り出せなかった失敗だ。著者は単なる雑学知識披露以上のストーリー(ギャグや皮肉など)をこの本に託しているに違いないのだが、それが実現されていない。

著者には、もっとネタをふくらませる努力を求めたい。「戦場の歩き方」というテーマだけで、一冊の本は書けたと思う。この書において表題文以外の読み物は全くの蛇足である。あとちょっとで名著なのに、惜しい。03/9/11

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