『情報と国家』 江畑謙介

講談社現代新書 2004 通読 新書 新書 B- \720+税 自 04/10/26

情報っつうものにはちょっとうるさい江畑ちゃんの新刊。

個々のインフォメーションを集めて、分析を加えてインテリジェンスにするんだよ、という話が最初に出てきて、本書の三分の一くらいは、世界のインテリジェンスのあり方に費やされている。もっとも、CIAがどうしたモサドがどうしたとか、落合信彦みたいなことはやっていない。興味本位のネタは出てこない、真面目な本なのである。

イラク戦争に関する氏の分析は、あまり面白くない。何故なら、ネオコンもユダヤ人も大統領の陰謀も出てこないからである(笑)。アメリカが中東展開兵力の維持の問題から、あるいは中東秩序の安定の目的から、はじめに開戦ありきという外交目的を定め、その後それに整合するような証拠集めをした結果、「イラクに大量破壊兵器がないはずがない」という予断に縛られすぎて、あやまった分析が行われたと氏は見る。まあまともな見解である。当たり前すぎて退屈だけど。ブッシュ政権は別に悪意の集団ではなく、単に無能な集団だったというわけである。どうもマスコミは、イラクに大量破壊兵器がなかったのにイラク戦争をしたアメリカの「悪意」にばかり注目する。情報分析を誤った米政府の無能には誰も言及しない。思えば、ケリーのブッシュ批判は、ブッシュの無能を攻撃するものだったな。そういう「有能-無能」の議論を勝手に「悪意-善意」に翻訳して補完して、人びとにばらまいている人がいるんだね。江畑先生による、なんのドラマもない、ただただ妥当な議論には誰もついてこないってわけだ。そして飛び交う陰謀論、そして反米合唱というわけ。ここでも情報というもののややこしさが現れているな。

さて、「北朝鮮の脅威」という昨今の日本の風潮にも著者は水を差す。それら報道は決して「真実」なのではなく、予測や憶測が多分に含まれていることを指摘する。それを考慮せずに、「事実」だの「真実」だのと決めつけることに著者は警鐘を鳴らす。よく考えれば当たり前のことなのだ。でも、往々にして当たり前のことができないのが我々人間で、それを表現することも、そして理解することも本当に難しい。だからこの本の内容には全く賛同できるのだが、にもかかわらず、何か腑に落ちない、消化不良の感が残る。

「正しい」「妥当である」という点では本書に問題はないが、「面白い」という要素が足りない。論評の的も絞り切れていない感じがする。その辺を一歩間違うと、中谷彰宏あたりのいかがわしい書物になってしまうから難しいところではあるが。

相変わらず巻末には妻裕美子への謝辞が述べられている。さてさて、この「情報」はどうインテリジェンスに高めるべきか。夫婦関係がうまくいっているという証拠なのか、あるいは破局寸前という証拠なのか。などとくだらないことを考えた。まあ前者と考えるのが妥当であり、もしこれから後書きに妻への謝辞が現れなかったときは、危機的状況を予測してもいいのではなかろうか、などと著者の情報分析手法を用いて考えてみるテスト。

情報と国家
情報と国家
posted with 簡単リンクくん at 2005.12.15
江畑 謙介著
講談社 (2004.10)
通常2-3日以内に発送します。

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