『リヴァイアサン』 ポール・オースター 柴田元幸訳

新潮文庫 2002(文庫)1999(単行本)1992(原著) 通読 文庫 文庫 A \667+税 A区立図書館 04/9/2

ホッブズのあれではない。為念。

裏表紙のあらすじ:一人の男が道端で爆死した。(中略)男が、米各地の自由の女神像を狙い続けた自由の怪人であることに、私は気づいた。FBIより先だった。実は彼とは随分以前にある朗読会で知り合い、一時はとても親密だった。彼はいったい何に絶望し、何故テロリストになったのか。彼が追い続けた怪物リヴァイアサンとは。謎が少しずつ明かされる。

アレ?かなりネタバレ要素含んでませんか?と最初見たときはすこし後悔した。が、半分ほど読み進めて、後悔する必要はなかったのだと気づいた。何故なら、このあらすじが全然あらすじになっていないからだ。全部読み終えた。やはりこのあらすじはデタラメだと思った。嘘は書いていない。だが、謎は確かに「少しずつ明かされ」たが、明かされない謎の方が多かった。確かに自由の怪人は出てくるが、それは殆どエピローグの部類で、この小説のテーマとは直接関係がない。「彼」は絶望しているかというと、そういう風にも言えないこともないが、それだけではない。これほど外しまくったあらすじを私は始めて見た。いや、これは多分わざとなのだろう。一見あらすじ、一見ネタバレに見えながら、実は全然そうではない、よく考えられた作品紹介なのだろう。

物語の大半は家庭や友人関係の中で展開される。その安定した世界にふとした偶然が入り込み、何かが崩壊し、新しいものが生まれてくる。・・・と書いては見たが、そう言ってしまえば、すべての小説がそういう構造なんじゃないかという気がする。ただ、偶然の介在する余地が非常に大きい小説だとは言えるだろう。私はジョン・A・パウロスの本なども読んで「偶然は意外なほど頻繁に起こる」ことを知っているから、全く気にならないが。物語半ば、「彼」の生活がふとしたことから崩壊し、引き寄せられるように不幸へまっしぐらな展開は、見ていて辛い。その不幸を完遂しようと向かったカリフォルニアで得た、ほんのつかの間の幸福な描写、しかしあっという間にそれも崩壊し、彼は行動に移る。そう、自由の女神像--といってもニューヨークにあるでかいやつではなく、全米各地の小さな模造品である。人称はころころ変わるが全く気にならない筆力、それを可能にする、小説家である主人公が事件を語っていくというある種メタな構造、

うーん、どうしても面白さが伝わらないな、これでは。面白い、読め、とは言えるのだが。

追記:「彼」はある時車を乗り捨てるのだが、その時、ドアをロックせずキーも差したままにする、そして、「夜が明けるまでにきっと誰かが盗んでくれるだろう」という期待・予想をするのである。これは日米の文化相違や治安状況の違いが見えて面白い。

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