『新編 魔方陣』 大森清美

冨山房 1992 部分読み B5 A or E 3500 *****図書館 2003/10/4

「魔方陣」の意味がわからない人は、こちら。魔方陣といい、魔法陣とも言う。二つは同音異義語かと思いきや、同じである。そのことは、本書にある「方陣の歴史」の節を読めばよい、。魔方陣はインドで、中国で、呪術的なものとして使われ、ヨーロッパでも占星術の対象となったのだ。思うに、「魔法陣」という言葉はゲーム・小説等、ファンタジー全盛の昨今にあって作られたのではなかろうか。もっとも、これは単なる憶測に過ぎない。

で、この本は魔方陣(magic square)についての本である。つまるところ、数学の本である。多分、高校程度の数学力--私が高校生の頃のカリキュラムでは、「数2」などといったレベル--があれば理解できる。私にとって数2レベルは高校時代から理解の範疇を超えているので、わかる範囲で読んだ。それでも十分楽しめる本である。

碁盤の目に一に始まる連続自然数を並べ、各行、各列、対角線の和が全て等しくなるものを魔方陣という。この本にはそんな不思議な魔方陣の作り方が書いてある。これを読めば誰でも簡単に魔方陣が作れるのである。単純な数字の羅列を見ていると、確かに呪術的な気分になる。魔方陣にも、いろいろな美しさがある。これは好みだとか、好みでないとか、はっきりと感覚されうる。見た目に美しくなくても、作り方の作法として美しいというものもある。驚くなかれ、江戸時代の日本でも、魔方陣は和算家にとって重要な研究テーマだったのだ。

第四章では、「4次の魔方陣」と題うって、4次方陣(4×4の升目の魔方陣)880個(!)を網羅してある。なんというか、執念である。しかし、数学的論証の上に示される880個というのはなかなか小気味よい。この章を頭から最後まで読むものは多分いないのであろう。それでも書くということが、数学的証明の厳密性なのであろう。

その他、完全方陣、様々な図形陣、なんと魔方陣を作るプログラム(Basic)までついている。この本を著した1973年、著者は27歳である。著者の職業は高校教師となっている。恐るべしと言ったところである。文章も平易で、一読して書き慣れた感じを得て、有名な大学教授あたりの著かとも思った。こんな教師に教われる生徒は幸せである。氏がどんな授業を展開しているのか知らないが、案外スタンダードな教え方をしているのではないかと推測する。「楽しい数学」などを標榜する左翼教師など超越した数学者感性を持つ氏のことである、甘ったるい授業はしないのではないか?これも憶測ではあるが、この執念と努力の結晶のような本書を見て、生ぬるい「数学の面白さ」などというものはどこかへ吹っ飛んでしまう。これは並々ならぬ努力と好奇心の末の、楽しみである。誰にでも到達できる地点ではすでにない。高みを目指すために努力を惜しまないその姿勢は、「本当は数学は難しくなくて誰にとっても面白いんだよ〜」とかたわごとを言うエセ数学者に爪の垢でも煎じて飲ませてやりたい。

万人にお勧めする著作ではないが、なんとなく、人に見せたくなる本である。個人的な評価ではA、A+をあげてもよいが、完全には理解できていないという点で、私にとってのE(奇著・怪著)でもある。読め、というか、見ろ、と言いたい。

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