『現代史の中で考える』 高坂正堯

新潮選書 1997 通読 A5 ソフトカバー A \1000 A****図書館 2004/05/05

1)大英帝国の場合 1.衰亡は繁栄の絶頂に始まった 2.イギリス病と大英帝国 2)変化の時代 1.天安門事件直後に感じたこと 2.ソ連解体とこれからの世界 3.パールハーバー50年目の評価 4.世紀末から考える「世界の中の日本」 3)日本と近代 1.天皇 その無用の大用 2.日本の宿命を見つめた眼

高坂正堯没後出版された、小文・講演集。1979〜1991の話ということで情報としては古く、大抵の国際関係書籍は古びて役に立たなくなるところ、この本は違う。考え方、とらえ方を学ぶことが出来る。著者は時に慎重に過去を描き、時に大胆に未来を予測してみせる。

慎重例は、パールハーバー陰謀説に関することだ。要は、ローズヴェルトは日本が戦争に踏み切ることは知っていた、だが真珠湾に来るとは予想し得なかった、という見解はまあ、まともな学者の公式見解である。だがそれを口語でしかも納得のいくように説明してくれるのはありがたい。情報を収集し、未来を予測することがどういうことなのか知っておけば、様々な局面で思考の助けになる。

大胆な例は、天安門に際して述べられた、中国の未来への悲観的予測である。この予測は、10年という短期的には外れている。中国は経済成長を続けているからだ。しかし、長期的にはどうだろうか。著者は悲観的予測の根拠として、1.天安門事件によって、人民解放軍が国内政治の重要な要因になることを自覚したこと、2.文革世代の勉強不足、を挙げる。政治と経済の発展に関して、中国とロシアが対比されるが、著者はむしろロシアに明るい未来を見ているようだ。一例として、ロシアのインテリゲンチャに対する尊敬を挙げる。私は、こうした中国の問題点は、遅かれ早かれ克服されなければならず、そうしようとした時に大きな混乱が起こるような気がする。今日本は中国の経済発展をもって、経済覇権の脅威としているが、著者は貧しい12億人が隣にいる方が脅威だと言う。それは確かにそうである。短期的には現れなかった中国の混乱だが、この先どうなることか。

講演集はえてして、平易なだけで内容の薄いものになりがちだが、この本は違う。「ソ連に対してなし得る最大の貢献は、爆撃隊を連れて行き工場の半分を壊してあげること」などという冗談の中にも、著者の知性と洞察が見えてくる。これほど「喋れる」国際政治学者の急逝は、今なお惜しまれるところである。

現代史の中で考える
高坂 正尭著
新潮社 (1997.10)
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