『兵士に聞け』 杉山隆男

新潮社 1995 通読 A5 ハードカバー A- ¥2000 *****図書館 03/9/25

1.鏡の軍隊 2.さもなくば名誉を 3.護衛艦「はたかぜ」 4. 4.防人の島 5.帰還

自衛隊の大将クラスから一兵卒まで、インタビューを重ねたノンフィクション。冒頭の問題提起はかなり読ませる。さすが、といった感じか。曰く、自衛隊関連施設には異様に鏡が多い。至る踊り場に鏡がある感じである。それに引っかけて著者は、自衛隊が外からの視線を特に気にかける組織であることを述べる。そして、終業に国旗が下げられると、全員その方向へ向かって敬礼するという、異質の空間。異質でありながら、異質であるがゆえに外からの視線を気にするのか。まさしく戦後日本は自衛隊を異質なものとして扱ってきた。自衛隊への蔑視、自衛隊における「やりがい」、個別事例をネタにしながら序盤、常に「鏡」がテーマとなっているところは筆力を感じさせる。

が、中盤からその問題提起はどこへいったの?と言いたくなる展開。いくら第一部、第二部と分かれているからといって、問題提起としても、レトリックとしても面白い「鏡の軍隊」というテーマはどんどん希薄になる。確かに、それでなくとも十分に面白い。一兵卒から見た自衛隊が、外部の人間や幕僚その他高官から見た自衛隊といかに違うか、訓練に見る自衛隊の矛盾、など読ませる所は多い。でも、そのここの話の面白さに甘えてしまって、ただの聞き書きになってしまった感があるのは残念。それともノンフィクションってそういうもの?

中でも面白いのはカンボジアPKOにまつわる話だ。自衛隊という組織がPKOによって浮き彫りになる。発砲許可にまつわる自衛隊の苦悩。予定外の危険な偵察任務に際し、現場の上官は、任務拒否者はあえて参加させない、という方針をとる。行きたくないといえば、行かなくてよい。そこまで我を通しきれないものは、家族のことを考えながらも、任務に就く。「いっそ命令してくれればよかった」と思うものもいる。上官の命令には絶対服従、が軍隊組織を支える基本理念ではなかったか?政府や幕僚の政治的な駆け引きの尻ぬぐいを現場がするという構図。そして日本帰還後の自衛隊内部の確執。一日16000円の特別手当を受け取ったPKO派遣自衛官は一時裕福になり、いい車を乗り回すようにもなる。その中で、行きたくても行けなかった自衛官の思い。

530ページの大著だが、読むのにそう時間はかからず、自衛隊の矛盾や問題点も随所に見えてくる好著。

常に蔑視の視線にさらされてきた自衛隊は、これから変わっていくことだろう。かっこいいとかやりがいがあるとかそう言う理由で志願者も増えることだろう。そうした時自衛隊がどう変わっていくか、北朝鮮の脅威を目の前にした今、見物である。

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