『ビアフラ戦争 叢林に消えた共和国』 室井義雄

山川出版社 2003 通読 B6 ソフトカバー C ¥1300+税 A区立図書館 04/11/6

「なにゆえ人類は、お互いの殺戮を繰り返すのであろうか。熱帯の叢林のなかに静かに消えていった兵士たち、地面にしゃがみ込んでこちらを見据えている子供たち、彼らの無言の叫びを忘れてはならない」なんて、最高にダサイ叩き文句が表紙に書いてある。中身はこの文句を反映しているかというと、全然反映しておらず、一粒で二度びっくりである。

恐らく研究成果の少ない地域・分野で、一般向けにまとまった本があるというのは確かに有益ではあるし、評価もする。が、「忘れてはならない」と言うのはいいが、ならば何か具体案--つまり歴史のイフ--があって然るべきだろう。それがないから、皮相を追っただけの本になってしまった。この本でビアフラ戦争の経緯は大体わかる。だが、「何故」という部分がちっとも分からない。挙げ句の果てに著者があとがきで、「どうしてもわからなかった」「疑問が解けたわけでもないし、とくに自信があるわけでもない」とのたまう始末で、頭を抱えたくなる。で、過去の植民地主義に責任らしきものをかぶせて終わり。あのなあ。もうちょっとマシな外交政策が、ナイジェリアにもビアフラにもあったんだろう。

著者はどこか、ナイジェリアから独立したビアフラ共和国にシンパシーを覚えているように感じられる。それはまあいいのだが、著者が悲しむところは、ビアフラ共和国がナイジェリアの軍事力に押しつぶされたことではなくて、内戦が二年にわたって長期化し、犠牲者が増えたことらしいのである。ならばビアフラ共和国は独立すべきではなかったのか?それは著者のビアフラに対するシンパシーに反するから違うのだろう。ビアフラ共和国はさっさと負けるべきだったのか?そんな戦争は最初からしなければいいのである。ではビアフラ共和国は勝つべきだったのか?

国際政治という観点を度外視して歴史を書き始めると、こういう訳の分からないことになる。あとがきで著者は言う、「『戦争』とは、それがいかなる形態をとろうとも、『殺人行為』にほかならない」と。そう言い切るのは簡単だが、国際関係という、個人関係よりワンランク以上低い道徳・信義のレベルしか求められない場において、それでは通用しないし、なにも分からないのである。著者がわからないのも当然で、ハナから分かるための知的スキームを放棄してしまっているのである。民族、主権国家体制、勢力均衡、さまざまなスキームが国際関係にある。こんなものは、恒久平和を実現するツールとしては何も意味がないが、仮構の世界秩序、かりそめの平和を得るにはこんなものでも利用するしかなくて、だから我々は数十年平和に生きている。

本文内容は前述したように客観的で、知識を得るにはいいだろう。著者の戦争に対する嘆きの心は、本文には殆ど現れてこないばかりか、戦闘や戦術を語る様は楽しそうにすら見える。白人傭兵のエピソードまで挿入されている。しかも驚くのは著者が憤るのは、白人傭兵が戦争に介入すること自体よりも、白人傭兵が半年分の給与をもらいながら三週間で帰るといったようなことだったりする。この人は本当にこの戦争を嘆いているのであろうか?戦争を殺人と言い切ると、こういう馬鹿な事態も発生してくる。戦場においてさえ、最も責められるべきは平時的な契約の不履行なの?

それはともかく、読書感想。ビアフラ戦争でひたすら絶望的な気分になるのは、中佐ごときが国家指導や軍指導をしなければならないという当時のナイジェリアやビアフラの状況である。ナイジェリア・ビアフラの混迷というのも結局は人的資源があまりにも不足していた事によるであろうことをうかがわせる。食料が足りない武器が足りない、でも一番足りなかったのは、両国共に優れた政治家や官僚だったのではないか。ビアフラに限らず、アフリカの悲劇の理由の多くがここに求められはしないだろうか。ビアフラ戦争にしても、どこかで交渉のタイミング、妥協のタイミングはあったろう、だが生かせなかった。あるいは、戦術的にここをもっとうまくやればより犠牲の少ない戦争終結--それがビアフラ共和国の滅亡か生存かはともかく--もあり得ただろう。殆ど素人に等しい民兵まがいでダラダラと戦争をしているから傭兵の力を借りなければならず、犠牲者の数だけが増えて何も生まないただ悲惨なだけの戦争が続くのである。

客観的な本文の歴史叙述と、政治的な表紙と後書きのアンバランスが、実に不安感をそそる迷著。価値判断をしたくてうずうずしているにもかかわらず、「わからない」としか言えない著者へのいらだちが募る。するならする、しないならしない、どっちかにしてくれ。国際経済学専攻ならまるきり門外漢でもないだろう。歴史家の視点を学ぶ努力を求めたい。あと、所々日本語が変だ。「命を免れた」人間は多分死んでいるぞ。「死を免れる」「命を取り留める」が正解だろう。校正、しっかりしろ。

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