『お札の文化史』 植村峻 

NTT出版 1994 流し読み A5 ハードカバー B \3200 *****図書館 03/10/15

お札マニアのお札マニアのためのお札マニアによる本。著者は現在大蔵省印刷局業務部長。毎日札を刷っている現場で、これだけのお札マニアとなると、さぞや人生幸せであろうとうらやましくなってしまう。

この本の基本は、よくある雑学本。ただ、その辺の馬鹿みたいな雑学本とは違うのは、百科事典を写したような本ではないということだ。よくもまあこれだけ調べたな、と感心する。札そのものについて調べて、知ることはさして難しくもないだろう。だがこの本にあるのは札の歴史なのである。しかも、何年に何とかという札が出た、などという面白くもない話ではなく、マイナーでも面白い話がある。よく、「○×から見た世界史」みたいな本はあるが、この本は割と成功している部類だろう。

例えば、17世紀カナダ東部で、トランプを4分の1に分割して、現地司令官がサイン、それを貨幣の代わりとしたという。アメリカの植民地戦争でフランス本国からの銀の供給が途絶えたためだという。歴史を正面から扱うと、こうした事実は見過ごされがちだろう。また、1941年から1946年まで、ハワイでは緊急券と称して、ドル札にHAWAIIの文字が特別に印刷された紙幣が流通したという。これは万が一ハワイが日本軍の手に落ちた時のためだという。このエピソードなど、日本人にとっては信じがたいことでもある。アメリカ人とて、戦争に際して「もしかして日本に負けるのではないか」という恐怖があったのだろう。そして、ハワイ陥落に周到に備えるアメリカ政府の抜け目なさも見ることが出来る。

このように歴史と紙幣を組み合わせることにより、雑学本の中では出色の出来となっている。紙幣がクローズアップされる時は、やはり戦争がらみである。インフレ、緊急紙幣、その中に歴史のドラマを見ることが出来る。

文章は「出来る役人」の鑑のような、必要十分、かつわかりやすい文章。お札マニアならずとも読む価値はある。

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