『インド対パキスタン 核戦略で読む国際関係』 西脇文昭

講談社現代新書 1998 通読 新書 新書 C+ \640+税  05/3/8

1998年インドとパキスタンが相次いで核実験を行ったことを受けて出されたであろう時事本の一種。

結論としては、パキスタンはインドを脅威に思い、インドは中国を脅威に思うというような話で、「まあそらそうだろう」というわけで目新しくはない。そんな結論ならなにも現地取材なんかしなくたって導き出せるだろう。でも行ってしまうのが、元ジャーナリスト(現防衛大学校教授)たるゆえんなのだろう。

原爆の技術的解説が簡潔になされているのはよい。なぜ黒鉛型発電所にこだわるのか?→プルトニウムがいっぱい出来るから。小型化がたやすいプルトニウム型に対し、難しいウラン型、弾道ミサイルによって核の安全保障をはかろうとするなら断然プルトニウム型ということが理解できる。日本は核武装できるとか行っている奴は、核の運搬手段まで考えているのだろうか?虎の子の核弾頭をのこのこ飛行機や船で運んでいくようでは、核抑止にはならんのですよ。

核を持つのはさほど難しいことでなくとも、核管制システム・核運用ドクトリンを作り上げる困難も耳目に新しい。インド軍部は核兵器の管理権を持っていない(首相管理下)。

インドがNPTやCTBTに反対する意味を著者は重視していて、「保有国によるアパルトヘイト」論に著者はかなりの同情を寄せている。倫理的にはかなりバランスのとれた姿勢であるが、さて実際にそうした論理を受け入れた先に何があるのか、これは難しいところであろう。

新書レベルにしてはよくやっている。ジャーナリストらしく、破綻なく核を巡る物語が展開されているのは読みやすい。反面、多少のいかがわしさも漂う。中国の発禁文書を引用するのはいいが、
1.周知のライバル・米国
2.東方の復興する強大なライバル・日本
3.とらえどころのない超殺し屋・ベトナム
4.最大の潜在的脅威・インド
5.威風健在のこわもて・ロシア
6.絶え間なく熱を発する周辺地域

ってこんな事を引用・要約されてもさあ。K1グランプリとか何かですか? これを引用して中国の仮想敵国観を想像するというのは、少なくとも本書の書き方においては悪い冗談にしか見えない。この辺はジャーナリスト的ないかがわしさを感じさせる。

時事本の域はでていないもので、現在的価値は大分薄くなったが、一般人に国際関係の姿をかいま見せるという意味では成功している書物。

インド対パキスタン
西脇 文昭著
講談社 (1998.8)
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