『アラスカ物語』 新田次郎

新潮文庫 1974 通読 文庫 文庫 A \590 自 03/10/18

若くしてアラスカに渡り、エスキモー社会に溶け込んで、飢餓・疫病で滅亡に瀕したエスキモーを救出、アラスカのモーゼとも言われたフランク安田の生涯を元にした小説。

すごいの一言に尽きる。今の日本にもすごい奴はいるだろうが、日本が貧しかった頃のすごい奴というのはなにかスケールが違う。あくまで小説であるので、全て事実のように受け止めてしまうのは問題だが、新田次郎の書き方は、どこまでが創作なのか割合はっきりしていると思う。細々とした会話は勿論創作であろう。だが、主人公にもかかわらずフランク安田はあまり喋らない。寡黙な人物というのではない。喋るのは主に周辺人物で、フランク安田は行動することによって、そのキャラクターを伝えている。こうしたことから、かなり事実に近い小説となっているのではないかと推測される。

波瀾万丈の冒険人生をいちいちここに書くことはすまい。氷原をさまよい、エスキモー女性と結婚し、アザラシを狩り、金鉱山を探しに旅に出て、そこでエスキモー移住の地を見つけ、出会った別の日本人の力を借りてインディアンと交渉、きりがない。創作小説でこんな事を書こうものなら、荒唐無稽、ご都合主義と非難囂々であろう。だが、これは事実なのである。

アメリカ人の人種差別がやはり目につく。エスキモー社会に溶け込み、多大な貢献をしたフランク安田でさえ、太平洋戦争勃発に際しては強制収容所に送られてしまう。だが、この当時アメリカにいた日本人にとって、そんなことは大した問題ではなかっただろう。彼らは人権だとか権利だとか、そんな保障が全くないところで生きるための闘争をしていたのだから。その闘争は、例え日本にいたところで変わるものではない。人種差別という壁を、自らの力で突破してしまう力強さ。当の本人達はさほどのことにも思っていないだろう。

何か新しいことを知った気になる小説。読み始めたら止まらない。

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